失敗話2005.02.18の日記から転載失敗の実話を、少し物語風に書いてみました。 ************************** 薄暗くなった昼休みの職場は、けだるい空気に包まれている。 省エネか節電かそんなことは知らないが、寝不足の冴えないオレの頭がやっと目覚めたというのに、昼休みにこんなに薄暗くされたら脳細胞が本当に休んでしまいそうだ。 定時後になると、いつも元気になると誉めらるが、それはオレだけの責任ではない。 「ノボさん、きのう同期のメンバーで飲みに行って、失敗話でヘンに盛り上がちゃいましたヨ」 「そうか。俺にも秘蔵の失敗ネタがあるけど、どぅ 聞きたい?」 退屈していたオレは、話し掛けてきた同僚を誘うと、 「誰にでも笑える失敗話があるもんですね。聴かせてくださいよ」 同僚は、仕事では決して見せない素早さで、わざわざ空いている椅子を持ってきて喰らい付いた。本当に、分かりやすい性格だ。 「オレが、友人の葬式に出たときの話なんだけどさ・・・オレはそのころ東京に住んでいて、いろいろあって葬式に遅刻したんだ。 着いてみれば、霊柩車が横つけされていて、出棺準備の真っ最中。 当然オレは、焼香もしていないし、最後のお別れもしていないだろ」 「葬式での失敗ですか・・・なにか、いやな予感がしますね」 「火葬場で、最後のお別れをするしかないからさ、火葬場に行こうとすると、仲間の連中も一緒に行くと言い出したから話がややこしくなった。 なぜか、オレが火葬場に行く車の手配を仕切っていたらさ、知らない間に霊柩車が出発して、オレの乗った車が霊柩車とはぐれちゃった」 「それで」 「オレが焦って車の中で、『最後のお別れをしていないだぞ』と真面目に言ってもさ、一緒に乗っている連中は、ロクデモない奴らだから、『オレラなんて、通夜と葬式で2回もお別れしちゃったもんネ』と、呑気なもんだ。 おまけに、『葬式のときは、関係者に事故が多いらしいから、安全運転でネ』とワザワザ言いやがる」 「ノボさんの友達らしいや」 「火葬場の駐車場に着くと、遠くに霊柩車が止まっているのが見えたから慌てた。 火葬場の建物に飛び込こんで探してみると、奥の方でちょうど釜の扉を開けて、大勢の人が集まり最後のお別れをしていたんだ」 「ということは、間に合ったんだ」 「ラッキーなことに、まだ釜の扉は閉まっていなかった。 小走りで近づいて、お棺を取り囲む人の後ろで息を整えてから、大真面目な顔をつくり、人を強引に押し分けてお棺を覗き込むと・・・・?? 21歳なのに、老け込んだ、変わり果てた顔がそこにあったんだ。 あまりにも見慣れた顔と違うからさ、オレはショックでお別れの言葉も考えられなくて、ただ大真面目に手を合わせていた。 病死だったからしょうがないのかと、真面目に考えたサ」 「そら、ショックでしょうね」 「少し疑問に思いながら、真摯な気持ちで佇んでいたら、『ちがう。ちがう』と、小さな声がオレの耳元で聞こえる。 横を見ると、一緒に来た奴が、私に逃げろと目で合図をしているんだ」 「エ~、どうして」 「お棺を間違えちゃった」 「最低だ・・」 「オレはまだ間違いに気が付かなかったんだけね。 なにかまずいことになっていると予感がしたからさ、人生最大級の大真面目な顔をつくって、『ありがとうございました』なんて言いながらコソコソとその場を離れたんだ」 「まったく・・・なんて人だ」 「オレに絶妙なアイ・コンタクトしたヤツは、サッサと脱出していて追いつくと、『違うお棺だった』と平気な顔をして言うんだ。 適当なヤツだろー オレは思わず吹き出しそうになって、あわてて建物から飛び出して、笑いを堪えていたら、おなかが痙攣して呼吸が苦しくなってね死にそうだった。火葬場で死んだら、始末が簡単でいいかもしれないけど・・・」 「困った人だ」 「アイ・コンタクトしたヤツがさ、『最初、お通夜で見た時とあまりにも変わっていたから、ヘンだと思って良く見てみたら・・・見たこともない、爺さんだった』と、ぬけぬけと言うんだ。オレは、とうとう吹き出したら笑いが止まらなくてね」 「本当に、困った人だ・・・」 「後から逃げ出してきたヤツがやってきて、『お前らが、あわてて逃げ出すから、その場にしばらくいたんだぞ。 周りの人が、不思議そうな顔をしていて、ヒヤヒヤだった』と、ばつの悪そうな顔をしてこちらを責めるんだ。 火葬場だから、それまで声が出ないように我慢していたのに、ついに声を出してバカ笑いになってしまった」 「アホですね」 「あまりにも申し訳ないからさ、見ず知らずのお棺の主に向かい、一同が整列して深々とお詫びをしたさ。 化けて出ないでねと。 でも、今になって考えてみれば・・・友人の死がものすごく切なくて、オレは感情をどう表現していいか分からなかったのかも知れない・・・」 あの時、死んだ友人もオレのそばで、涙を流してバカ笑いをしているような気がしていた。なぜなら、オレの仲間の内で、そんな失敗を大真面目にするのが、いつも彼だったからだ。 |